「役者は虚構を実像に見せるために嘘をついている」
市原隼人の芝居に対するあくなき探求心
―――本作で詐欺師を演じるにあたって、どのような準備をされましたか?
「フィクションなのでキャラクターは虚像であり、役者は常に虚像を実像のように見せるために嘘をついています。僕がこの役に取り組むにあたって準備したことは、田胡悠人をリアルに見せるために、彼に寄り添うこと。これ一択です。
でも撮影中、涙が出てこなくなったり、声がうまく出なくなったりということがありました。彼に寄り添い過ぎたのかもしれません」
―――“役者は嘘をついている”という言葉が衝撃的ですが、どの役でもそう思いながら演じているのでしょうか?
「はい、思っています。観てくださる方に申し訳ないなという気持ちもありますが、虚像とはいえ、生々しく存在する人物として演じ切ることを心がけています」
―――リアリティを意識して演じられて、ご自身の中で田胡役の正解は見えましたか?
「どうでしょう…正直、芝居にはたったひとつの正解はないと思います。僕自身、これまでいろいろな作品に出演してきましたが、100%の満足を感じたことはありません。でも僕たちの仕事は、作品を見てくださる方々に感動したり、楽しんでいただいたりすることなので、そのために全力を尽くすことが大事だと思っています」
―――満足できない中でモチベーションを保つのは大変ではないかとお察しします。
「そうなんです。撮影の後、監督に『いいカットが撮れましたね! 』と言っていただいても、自分ではそれがいいのかどうかもわからない。でも監督の言葉を信じて、しがみつくしかないので」