「助けたいと思う可哀想な子しかメディアは取り上げない」
“雑に平等に助ける”というテーマ
―――『新宿野戦病院』は、わかりやすい感動作に出来そうな題材ですが、あえてそうしていないところに面白さがあると思っています。チャレンジしているドラマだなという印象があります。
「どんな人でも雑に平等に助けるという『新宿野戦病院』のテーマは、現実の歌舞伎町に必要な感覚だと思います。今の若い人を見ていると、SNSで華麗な成功例に触れていて、いつ自分の周りの子がバズってスターになるかわからない中で、コスパ・タイパ重視で正解じゃないと不安になったり、自分で道を切り開かなくちゃいけないという焦りに囚われている子が多い気がしていて。
そんな若い子たちが『人間は意外と死なない』ということを知るのはとても大事ですし、『聖まごころ病院』には死のうとしても助けてくれるヨウコがいる。そのことが救いだと思います。
私が常日頃から不満に思っていることの1つは『助けたいと思う可哀想な子しかメディアは取り上げない』ということです。その点でも本作の試みは貴重なものだと感じます」
―――「聖まごころ病院」には、急性アルコール中毒や、オーバードーズなどの患者が担ぎ込まれますが、コロナ禍を経ても歌舞伎町の雰囲気は以前と変わらないですか?
「歌舞伎町に住んでしばらく経ちますが、変わらないと思います。ちょうど私、『新宿野戦病院』に携わる直前に、酔っぱらって足をひねって近場の病院に救急車で運ばれまして。
朝の7時くらいだったのですが、全身ハイブランドのスカウトっぽい人が腕に包帯を巻いていたり、オーバードーズで若い子が運ばれてきて、『こういう薬はね、困ってる人が使うものだから』と医師の先生に怒られている様子を目の当たりにしたんです。その後『新宿野戦病院』の台本を読ませていただいて、現実そのものだと思いました」
―――本作で宮藤さんが描くは「雑であること」のポジティビティと、歌舞伎町に寄り添い、肯定する佐々木さんのスタンスには共鳴する部分があるように思えるのですが、いかがでしょうか?
「おこがましいかもしれませんが、共感するところはあります。歌舞伎町って意外と人情味がある町なんです。みんな何かしら後ろめたさを抱えたりしているから本名も知らないけど、酔って泣いている女性がいれば誰かしらが『お姉さん大丈夫?』って声を掛ける。
歌舞伎町で女が泣いている場合、原因は100%男。勿論、優しい行動の裏には利害が渦巻いているわけですが…それをしっかり承知していれば、この街で遊ぶのは超楽しいですよ。ただし、歌舞伎町の優しさは搾取なので、特に未成年の子たちには、本当に犯罪に注意してほしいということは強調しても足りません」