ムードメーカーだった惟規の死
しかし、願いも虚しく最後の「ふ」を書く前に力尽きる。惟規の死はその辞世の歌とともに実家へも届けられ、悲しみが広がった。幼い頃から漢詩に全く興味を示さず、勉学全般が苦手だった惟規。
けれど、辞世の歌を見てもわかるように歌人としての才能があり、死の直前には内裏でも従五位下にまで上り詰めた。その際にはいつか来る時に備えて用意していた赤い束帯をプレゼントしたいと(信川清順)。惟規の乳母であり、ちはやが亡くなってからは本当の母であるかのように、惟規の行く末を案じながらもその力を誰よりも信じていた。そんないとが惟規の死を知り、慟哭する姿が苦しい。
惟規がいなくなって、まひろの家からすっかり光が消えたような気がする。それくらい惟規の存在は大きく、彼もまたみんなにとっての“光る君”だった。こんなにも多くの人に愛されたのは高杉の好演あってこそ。どんなにシリアスな展開であってもムードメーカーであり続けた高杉演じる惟規の退場にロスが広がっている。
けれど、惟規の光はまだ残っている。愛する弟の死に打ちひしがれる母まひろの肩にそっと手を伸ばす賢子。2人を心配する惟規の魂がまだ現世に留まっていて、その手を導いたのかもしれない。そしてまひろは賢子の胸で声を押し殺しながら涙を流す。「ほら、うまくいくって言ったでしょ」と笑う惟規が見えた気がした。
(文・苫とり子)
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