炭鉱夫という命懸けの仕事への誇り
島外の大学を卒業し、生まれ育った端島に帰ってきた鉄平。端島は島民の8割が炭鉱夫とその家族で、彼の父・一平(國村隼)や兄の進平(斎藤工)も炭鉱夫だった。彼らは海の底よりも地下深くの坑道に1時間かけて辿りつき、気温35度、湿度80%超えという近年の真夏の外と同じくらい茹だるような暑さの中で働く。そして汗とすすまみれになりながら掘り出すのは、かつて黒いダイヤモンドと呼ばれた石炭だ。
石炭は当時、主要なエネルギー源で日本の近代化や戦後復興を支えていた。なおかつ鉄平は、一平が石炭の粉塵で肺をやられてもなお必死に働いて稼いだお金で大学まで行かせてもらったのだ。
にもかかわらず、炭鉱夫は職業差別に遭い、鉄平も端島の出身というだけで島外の人に顔をしかめられることがあった。おそらく一平が無理をしてでも鉄平を大学に行かせたのは、そういう現実を知っていたからだろう。
自分とは違い、命の危険に晒されることも差別されることもない職業に就いてほしかったのかもしれない。だが、鉄平は島の炭鉱業を取り仕切る鷹羽鉱業の職員になることを選んだ。そこには炭鉱島である故郷への誇り、父親たちは尊い仕事をしているんだという矜恃があり、それが『海に眠るダイヤモンド』というタイトルにもあらわれている。