いづみの正体は、3人のヒロインの誰か?
それをさらに掻き乱すことになるのが、端島に突如降り立った謎多き美女・リナ(池田エライザ)。何らかの事情で元いた福岡を離れ、端島にやってきた彼女は職員クラブで女給として働き出すが、坪倉演じる三島に体を触られて咄嗟に水をぶっかけたことであっという間にクビになってしまう。だが、鉄平が元歌手だというリナにみんなの前で島に伝わる端島音頭を歌わせたことで受け入れられ、端島に留まることになった。
出会ったばかりだが、鉄平はどこか影のあるリナを気にかけているようで朝子は悶々とした感情を抱く。幼なじみの関係はリナが現れたことで大きく変化していくのだろう。全体的に見れば、壮大なスケールの物語だが、実際に焦点があたるのは私たちと何ら変わりない市井の人々の日常だ。
誰もが仕事や恋愛、友情、家族など、さまざまなことに日々葛藤しながら過ごしている。それを贅沢にも神木隆之介、池田エライザ、清水尋也、土屋太鳳、杉咲花という、最高峰の俳優たちが約3ヶ月にわたって表現して見せてくれるのだからテンションが上がらずにはいられない。
そして最大の謎は現代で玲央の前に現れたいづみが一体何者なのか、ということだろう。冒頭では、「戻れないあの島、 今はもういない人々。 愛しい人の思い出はすべて、あの島へ置いてきた」といういづみのモノローグとともに、赤ちゃんを抱えたリナが船で端島を脱出する姿が描かれる。
またいづみが玲央に投げかけた「人生変えたくないか?ここから変えたくないか?」という台詞は、鉄平がリナに投げかけたものと同じであり、普通に考えればいづみ=リナだ。しかし、ラストではいづみが百合子あるいは朝子である可能性も示唆される。
今や無人島となり、廃墟と化している端島。そこで暮らしていた鉄平たちはどうなったのか、そしてリナはなぜ逃げるように島を後にしたのか。そのラストを見届けた未来の私たちはきっとハンカチを握りしめているに違いない。
(文・苫とり子)
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