最期まで愛情深かった一条天皇
そして譲位から間もなく、一条天皇は崩御する。最後の瞬間までそばで寄り添った彰子に、「露の身の風の宿りに君を置きて塵を出でぬる事ぞ悲しき(露の身のような私が、風の宿に君を置いて、塵の世を出る事が悲しい)」と辞世の歌を詠んで聞かせた一条天皇。
普通に考えれば、彰子に向けた歌だが、書物によっては微妙に文言が異なり、君=定子(高畑充希)とする解釈も存在する。意識が薄れゆく中、一条天皇が誰のことを思い浮かべていたのかはわからない。しかし、定子のことも彰子のことも愛していたのは間違いのない事実だ。
円融天皇と詮子(吉田羊)との間に生まれた一条天皇。権力を求める公卿たちに振り回されない強い帝になってほしいという思いから詮子は厳しく息子を育てたため、一条天皇は幼い頃からどこか達観していた。そんな彼の寂しさを受け止め、ひとりの人間として接してくれたのが定子であり、情の深い一条天皇は彼女を生涯愛し続けた。
だからこそ当初は彰子にそっけない態度をとっていたが、その孤独も見て見ぬふりはせず、定子を愛したまま彼女の思いにも真摯に向き合った一条天皇。寒い日でも暖かいものを羽織らず、火も使わない理由について「苦しい思いをしている民の心に、少しでも近づくためだ。民の心を鏡とせねば、上にはたてぬ」と彰子に語っていたが、彼は2人の妻を思い、子を思い、民を思う、とことん愛に満ちた人だ。
なおかつ、出家に伴って剃髪してより一層際立つ、ため息が出るほどの見目麗しさ。普通なら人間離れした存在になってしまいそうなところ、そうならなかったのは塩野瑛久の演技に依るところが大きい。
塩野はこれまでも、『来世ではちゃんとします』(2020、テレ東系)でハイスペックだが実はSM好きで縛られた女性の姿に興奮するサラリーマンや、『かしましめし』(2023,テレ東系)で普段は明るく振る舞っているが恋人の浮気を知りながら追求できずにいるゲイの男性など、内に秘めた人間の欲望や弱さを繊細に表現してきた。