牧野の言葉が勇気をくれる
冴島家で、細心の注意が払われるのは病気がちな直明だ。母・環(ソニン)は息子の健康を何よりも優先し、長い入院生活を終えた後も目を離さないという姿勢が見て取れる。
必然的に、啓は自分がしっかり者の姉でなければならないという思いを抱いているはずだが、彼女もまだ小学6年生の子供。弟の面倒も見て、なおかつ自分の学校生活も問題なく送って当たり前と家族から見られるのはなかなかにしんどいはずだ。
そんな彼女が家を飛び出して向かった先は牧野の元だった。弟のことについて相談する啓に対して、「なぜそれを俺に言う」と返す牧野はやはりドライだが、それも自分ではなく、彼女自身が親と話し合うことが解決に向かうと知っているから。
「なんで私先生にこんな話してんだろ」と啓は自問自答するが、心のどこかで牧野は信頼できる大人だと見抜いているのだろう。「直明の病気背負えると思うか? お前の責任なわけがない」という言葉は啓に勇気を与え、同様の境遇にある子供たちの心も明るく照らす。
また、母・環との牧野の向き合い方も見事だった。娘が姿を消してもどこか冷ややかで、見つかったという報告を聞いても表情を動かさない姿は冷たい母親にも見えてしまう。そんな母親を牧野は叱るわけでもなく、「冴島啓はとんでもない問題児ですよ」と娘からも目を離さないでほしいということを伝えるのだった。