伝えられない「嘘」の葛藤
ずっと孤独を感じて生きてきた品子に、かつての自分を重ねていた鹿乃子は、左右馬に品子がついた“嘘”を伝えられずにいた。
しかし、そんな鹿乃子の葛藤に気づき、さらりを手を差し伸べるのが、左右馬だ。「言いたくないなら、言わなくていいけど…」と前置きをした上で、「バレバレですよ」と言ってあげる。
「君は、自分の力を人を傷つけるようなことに使わないでしょ?」という言葉も、これまでずっと嘘を読み解くことができる力のせいで気持ち悪がられてきた鹿乃子にとっては、光のように感じたのではないだろうか。左右馬は、鹿乃子の力を「素晴らしいものだ」と認めてくれる一方で、この力があるせいで感じてきた鹿乃子の孤独に寄り添う努力をしてくれる。
「いい嘘か悪い嘘かなんてね、状況や立場によって変わるよ。だったら、自分が正しいと思うように動けばいいんじゃない?」
この左右馬の言葉は、鹿乃子だけでなく、わたしたちの心にも響くものだった。SNSが発展した現代は、さまざまな情報を享受できるようになった。しかし、そのなかには、真実ではないことや、湾曲された事実も入り混じっている。わたしたちは情報を取捨選択していかなければならない。「これは、真実なのか?」「それとも、嘘なのか?」と、頭のなかで振り分けながら。
しかし、鹿乃子が言っていたように、嘘には人を気遣うような思いやりのある嘘もある。だったら、自分が正しいと思うものを、信じて突き進んでいくしかないのだ。
明らかに嘘をついている品子と、鹿乃子はどう対峙していくのだろう。そして、左右馬の鹿乃子に向けた愛がやっぱり深すぎる。綾尾家の離れで、誰かが死んでいるのかもしれない…となったとき、左右馬は鹿乃子に女中に鍵をもらいに行くように頼んでいた。そして、すぐさま窓を叩き割ったわけなのだが、「中で品子さんに何かあった場合、鹿乃子さんが可哀想でしょ?」と。
左右馬はひょうひょうとしているが、すでに鹿乃子に対して深い愛が芽生えているんだろうな…と思った瞬間だった。
(文・菜本かな)
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