着実に成長する亀山薫
本作は人間ドラマとしても面白かった。
田舎から逃げ、都会にも馴染めずネット世界に閉じこもった経験から「この世に”楽園”なんて無い」と自嘲する樫村が、古瀬と綾乃という親友2人と過ごす日々こそが”楽園”であったと気付くのがグッとくる。
またそんな彼が綾乃を守るために、命懸けで恐ろしい半グレに挑む姿が素直にカッコいい。
更に本物の鮫島である田村と綾乃や、殺された古瀬にも共通点があるのも興味深い。
彼等は全員幼少期に親から捨てられていたのだった。田村は道を踏み外し、母と再会できてもなお女性に固執するようになった。一方で綾乃や古瀬は、仲間想いの真っ直ぐな人間として育った。
さらに本作では、亀山薫の成長も見て取れた。
右京が捜査に関わっている事を知って休日返上で捜査に赴いたのは良いが、連絡が取れずに彼の思考を逆算してどこにいるかを見事に予測してみせた。
これはかなり凄い。右京と相棒が別々に捜査する話自体は珍しくない。しかし、その際は、最初は右京と一緒に行動していたり、彼から明確なヒントを与えられ、その言葉に誘導されながら突き進んでいくパターンが多かった。
実際に神戸、カイト、冠城もその手の話が基本的に多い。
しかし今回は休暇中ということで右京も遠慮したのか、亀山へ手掛かりを残す前提で動いていない。実際に何度も手掛かりが途絶えるポイントはあったが、亀山は右京と長年一緒に過ごしてきた経験則で難局を乗り切っている。
また、亀山が右京の足跡を追う場面を見せることで謎めいた事件の全体像も分かるなど、脚本にも趣向が凝らされている。そして場が温まりきったタイミングで亀山は右京を救うのである。
スマホも”相棒”も無くなって初めて有り難みが分かるもの。樫村も友人との時間を失い初めて有り難みを理解した。
筆者は『相棒』を観ている時間が”楽園”だと考えている。掛け替えのない時間を大切にするような気持ちで今後も視聴していきたいと思う。
(文・Naoki)
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