「托卵」という禁忌を犯した代償
喫茶店のマスター・浅岡忠行(北村一輝)が宏樹に告げた「もう父親始まっちゃってんじゃないか?」は、今思えばものすごく本質を突いた言葉だったのではないだろうか。宏樹は「俺、父親するの無理なんで」と口に出しつつも、行動は真逆で、いつも栞を目で追っていた。
疲れて眠る美羽の代わりに哺乳瓶を片付け、愛おしそうな顔で栞の頬をツンツンとつついたこともあった。美羽との会話では以前の荒々しさがなくなり、気遣う言葉が増えていく。目線が、所作が、纏う空気が、すべてが優しい。表情からも栞への愛おしさが溢れ出るその姿は、まさに子を愛する父親そのものだった。
第1話ではモラハラ夫だった宏樹が、心を入れ替え、別人のように穏やかになっていく。そんな宏樹をみていて思う。宏樹が本当の父親だったらどんなによかっただろう、と。栞が自分の子どもでないと発覚したときの、宏樹の絶望は計り知れない。でも、宏樹が「托卵」の事実を知ってしまう可能性は、確実に存在する。想像しただけでも、地獄でしかない…。
一方で、宏樹が“いい夫”や”いい父親”になっていくたび、美羽の心には無数の棘が刺さっていく。これが、美羽の消えることのない“罪悪感”であり、「托卵」という禁忌を犯した代償だった。