美羽と冬月が再び思い出の図書館で出会う…。
美羽はきつく当たる宏樹との生活のなか、救いの存在である冬月と再会し、彼の子を妊娠。そして、冬月が異国の地で命を落とした(と思い込んだ)ことにより、やむを得ず「托卵」の道に足を踏み入れた背景がある。でも、宏樹が“いい夫””いい父親”になった今。美羽が「托卵」の道を選んだ意味をなくしてしまった気がしてならない。
これまでの振る舞いを謝り「栞の父親にしてほしい」と伝える宏樹に、「宏樹は栞の父親だよ」と答える美羽。その顔には、一抹の後悔が滲んでいたようにも見えた。
そんななか、アフリカで死亡したとされていた冬月が日本に帰国する。冬月は、美羽のことが忘れられない。中学生時代、幼いころからの夢を諦めて落ち込んでいた自分に、救いの手を差し伸べてくれたのが美羽だったから。
「欲しいものとか夢とか全部諦めても、素敵なものはなくならないよ」
「世界には素敵なものがいっぱいある それをまだ知らないだけ」
この美羽の言葉は、冬月にとって原動力となっている。美羽自身も家庭の事情で諦めなければならないことが多く、冬月の挫折に共鳴したのだろう。冬月は美羽に救われ、美羽もまた冬月に救われた。ここだけ切り取れば、美しい純愛に見えるのだけれど…。
不倫関係にある冬月と再会しなければ、美羽と宏樹、そして栞は、“いい家族”でいられたのかもしれない。しかし、運命とは残酷なもので。美羽と冬月は再び思い出の図書館で出会ってしまうのだ。
「栞」の名前には、初めて栞を抱いたときに涙が止まらなかった、あの瞬間と感覚をずっと忘れたくないという宏樹の願いも込められている。父親になっていく宏樹に、悪女の決意が揺らぐ美羽。そして、恐ろしいほど無垢に美羽を想い続ける冬月。三者は、いったいどんな場所へたどり着くというのだろうか。
(文・西本沙織)
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