海里の心の闇を照らす奈緒“ほこ美”の純真さ
そもそも、ほこ美はなぜこんなにも海里に惚れ込んでいるのだろうか。良かれと思って世話を焼いてあげても、「おせっかい」と突き放され、八つ当たりをされることだってある。ボクシング会場で、「いい加減にしてくれよ。俺は、ここで人を殺してる。本当はここにいるのも、吐き気がするんだよ!」と言い放ったときの海里の表情はあまりにも恐ろしくて、わたしだったら「もう、関わりたくないな」と思ってしまうかもしれない。
でも、ほこ美は海里の虚勢の裏にある本当の優しさや葛藤に気づいているのだろう。7年前の事故から、海里はたくさんの非難の声を浴びてきた。大地の親からは、「大地を返してくれ!」と罵られ、実の父親からも「だから、ボクシングなんてやるなって言ったのに」と突き放される。そして、せっかく前に進もうとしても、“人殺し”というレッテルが邪魔をする。
海里だって、大地のことが大好きだった。それは、過去の回想シーンを見ていれば、分かる。ずっと大地の背中に憧れて、やっと戦うことができた。それなのに、あんな事故になってしまうなんて。
悲しくて悔しくてたまらないのは、海里も同じだと思う。強がってしまうのは、まわりに心配をかけたくないから。自分なんかが悲しんではいけないと思っているのかもしれない。だから、ずっと平気な顔をして、生きてきた。自分には、人生を楽しむ資格なんてないと思いながら。
そんな海里の心の闇に気づいてあげることができるたのは、ほこ美の心がピュアだからだと思う。どんなにひどいことを言われたとしても、その人の裏にある本音を見抜き、その傷を癒そうとしてあげる。「だから、クズに引っかかっちゃうんだよ…」と言えばそこまでだが、海里はほこ美の存在に救われているはずだ。