恨まれてもいいから生きていてほしい
四織と同じく、加奈のことを思っていた人物がいる。歩だ。当時、助かる見込みがないと知っていた加奈は、日本にいる病弱の母親(四織)に本当のことが言えず、最期まで元気な姿を見せたい、と考えていた。
相談していた歩にも「嘘でもいいから、言葉だけでも『頑張りましょう』と言ってもらえませんか?」とお願いしていたのだ。
「頑張れ」は加奈からの依頼だったーー。なぜそれを四織に伝えないのか?
「自分の命は諦めているのに、歩への復讐は積極的」。これが彼女のモチベーションならば、このまま恨んでもらった方がいい。それで生きてくれるなら…と歩が憎まれ役を買って出た、というのが真相だった。
手術に向かう四織とすれ違っても歩は声をかけない。ただ、背中に向かって小さく「頑張ってください」とエールを送るのだった。