会場からはすすり泣く声も…。
このドラマに悪人は出てこないが、だからこそ、ハッとさせられるセリフも多い。工藤という同じマンションの男子大学生は、泣き声が響くユカの部屋を気にかけ、助けに駆けつけるやさしい青年だが、「母親やねんから」とユカを叱責する。
また、友子の夫・卓也は「児童相談所に任せるのが一番や」と言う。昔、友子の虐待に遭い、一時的に施設に入れられた葉月は「簡単に言わんといてよ。親は悩んだ末に施設に預けるから安心やろね。でも子どもは、急にあそこで暮らしって言われて従うしかないねん」と怒る――。
視聴者誰もが、当事者、傍観者として登場人物の誰かに共感し、自然と「自分事」として考えさせられるのである。
上映会では、すすり泣きも聞こえてきた。配られたアンケートには「とても心を刺激され、考えるべき事の多い映画でした」「自身の子育てのことを思い出し、つらかった。もっと頼れる場があれば、救われる人はいると思う」「虐待の背景には何か事情があると思って見守り、接することの必要性を感じました」などの感想が寄せられた。
虐待など、特殊な状況だから一般市民には関係ない。ドラマはおおげさに書きすぎる。そんな気持ちがひっくり返るようなリアルさは、NHKと安田の丁寧な取材によるものである。