「急に世界が『2キロ圏内』になった」
初めての子育てで感じた辛さ
安田は、上野樹里、沢田研二が電器屋の親子を演じたことでも注目を浴びた劇場デビュー作『幸福(しあわせ)のスイッチ』(2006 監督・脚本担当)をはじめ、すべての脚本執筆において取材を重視している。
『やさしい花』脚本執筆の際は、ディレクターとともに、児童相談所の職員や、児童虐待の当事者、子育て支援者などにヒアリングを重ねた。NHKの取材の蓄積も参考になった。
上映会後のトーク会では、安田が育児や取材を経て感じたことを、データなどを見せつつ話した。
「いろんなケースをお聞きしましたが、鬼のような人はいなかったんですよね。普通の真面目そうなお父さん、お母さんが、自信をなくして虐待につながるケースが結構多いんです」
なにより、脚本の依頼を受けた時期は、彼女自身も子育ての真っただ中。『幸福(しあわせ)のスイッチ』で劇場デビューした後、まもなく子どもを授かった。すると監督として撮影現場に行くことが難しくなり、脚本業のみになってしまった。
それまで忙しく飛び回っていた生活が、いきなり半径2キロの生活になり、想像していたのとは違う辛さが待っていたという。
「もともと12 歳下の弟がいて、小さい子の面倒は慣れていたし、睡眠不足も職業柄平気でした。ところが子育ては違いましたね。ちょっとヘタをしたら死んでしまう小さな命を24時間ケアするのは、心身ともに大変な作業です。夫以外と話さない日も多いし、息子は夜泣きがひどかったので2年間まともに寝られず、睡眠障害、育児うつになりかけました。それまでは、我が子に手をあげるなんて信じられないと思っていましたが、虐待は誰もが陥る可能性のある過ちなんだ、と実感しました」
そんな自らの体験も踏まえて、NHKの製作陣と、ドラマの方向性を検討した。
「子どもだけでなく、困っている親も救うアプローチが必要。大変な時は、周囲にいくらでも助けを求めていい。そんな視点をドラマに込めよう、と決まりました」