本当は好きなのに、突き放してしまう…。
大人になると、お世辞を言うのがうまくなる。お世辞を嘘と呼んでいいのか分からないが、本当は「大したことないなぁ」と思っているのに、「天才ですね!」と褒め称えたら、鹿乃子の耳には嘘の音が鳴り響くことだろう。
基本的にお世辞って、相手を傷つけようとして言うものではないから、「これはお世辞なんだ」と分かってしまうのって、本当にしんどいと思う。できることなら、相手の言葉をそのままありがたく受け取りたいものだ。
その一方で、女給のリリー(村上絵梨)のように、本当はプラスの感情を持っているのに、相手にマイナスの言葉をぶつけてしまう人もいる。
女給の仕事は疑似恋愛を提供することもあるため、リリーは「君は特別だよ」「僕を信じて」とお客さんたちから愛の言葉を囁かれてきたらしい。ただ、それは店のなかで恋人の真似事をしているからこそ出る言葉だ。
そのため、一歩外の世界に出ると、一瞬にして壊れてしまうこともある。壊れてしまうというか、そもそも存在していなかったのかもしれない。
だからこそ、リリーは貫二にも踏み込むことができなかった。本当は好きなのに、「恋人ごっこも飽きちまったよ。わたしが、あんたなんかに本気になるわけじゃないじゃないか」と貫二を突き放してしまう。
鹿乃子は嘘が分かる能力を持っているため、リリーの本音を察することができるが、そんな能力がない貫二は、彼女の言葉をそのまま受け取るしかない。「僕なんて、相手にするわけないよなぁ」とリリーのことを諦めようとしてしまうのだった。