第3話以降不安定な様子を見せる冬月の今後から目が離せない
ところが、第2話での不在を経た第3話で出張先のアフリカで難を逃れ、帰国した冬月を演じる深澤は、なんだか画面内に定着せず、不安定な状態であるかに見える。
命からがらだった冬月はほんとうに帰国したのか。彼が日本に存在する事実がどうも疑わしくなる。その不安定さ。第1話冒頭で、カメラの前進移動によって表現されていた声以上に、その不安的な存在が色っぽく感じられるから不思議だ。
歩道橋にたたずむ冬月は、出国前に同じ場所で美羽と交わした会話を回想する。横並びで、冬月はやや上あたりを見上げていた。背景には青空。回想場面ですでに深澤は、役を演じる演技(物語)レベルでは画面にしっとり定着しているのに、でもどこかその存在がフレーム内には定着せずに、画面上からせりあがっているように見える。
このシーンにおける深澤の魅力は、第1話で酢昆布を取り出した場面でのピンボケ演出に関係するのかもしれない。あるいは、第5話で美羽に子どもを抱かせてもらえなかったあとの歩道橋場面を思い出してもいい。
背景は曇り空。冬月がひとり、視線を下げる。画面左側に深沢の横顔、右側には曇り空がいっぱいに広がっている。注目すべきは、深沢の視線の先に細長い通路のような空間が見出せるという点だ。画面の上手側と下手側で被写体が占める、単純な構図の問題では片づけられない。
『わたしの宝物』の深澤辰哉は、定着と不安定のすれすれのところで画面上に存在しながら、声の通路と視線の通路を可視化する。この直線的なふたつの通路は、ドラマ後半へかけて徐々にクロスするとき、深澤辰哉の不思議な色気と魅力がどこからきているのか、その秘密が明らかになる気がする。
(文・加賀谷健)
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