かの有名な「望月の歌」
道長はまひろの言葉を受けて、摂政と左大臣を辞任。とはいえ、その影響力がなくなったわけではない。道長の四女・威子(佐月絵美)がわずか10歳の後一条天皇に入内。彰子が太皇太后、妍子が皇太后、威子が中宮と3つの后の地位を道長の娘が独占することとなった。
そして威子が中宮となったことを祝う宴で、かの有名な〈この世をば〉から始まる歌を道長が詠む。おそらく日本人のほとんどが知っているであろうこの歌は、栄華を極めた道長の驕りの象徴と思われてきた。だが、本作ではそのイメージが覆される。
そもそも前述したように、この時点で道長はもう国家の頂から降りている。その役目は頼通に任せ、彼が公卿たちと盃を交わすのを見届けた道長はふらりと外に出て、〈我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば〉と詠んだ。
「満月に欠けたところがないように、この世で自分の思うようにならないものはない」というように訳されることが多いこの歌だが、当日は完全な満月ではなく、少し月が欠けていたことが知られている。では、なぜ〈望月の 欠けたることも なし〜〉と詠んだのか。それは、自分が欠けても、あとの皆が力を合わせて満たしてくれるという安堵感から生まれたものではないだろうか。
同時にまひろに対しては、初めて廃邸で結ばれた日の夜の気持ちを伝える歌にも聞こえる。2人は夫婦という形で結ばれることはなかったが、あの日だけはまひろという本当に自分が欲しいものを手に入れた道長の上に月明かりが降り注いでいた。あれから30年以上が経ち、政治人生に幕を下ろした道長の上に月明かりが降り注ぎ、まひろがそれを見届ける。
『光る君へ』はあと残り4話。約束を果たした2人は残りの人生をどう生きていくのだろうか。
(文・苫とり子)
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