「信じて飛び込んでみなきゃ、始まらない」
左右馬(鈴鹿央士)は、鹿乃子に「どうして、わたしが嘘を言っているんじゃないかって考えないんですか? 先生は嘘を聞こえないのに」と聞かれたとき、「聞こえないからじゃない?」と答えていた。たしかに、嘘が聞こえないわたしたちは、相手が言った言葉を嘘か真か判断することはできない。
「信じるか信じないかの基準はなに?」と聞かれたら、「信じたいと思うかどうかじゃないかな」と答えると思う。たとえば、寸借詐欺が流行っていると警戒されているなかで、端崎(味方良介)は「財布をスリに盗まれて、汽車に乗れなくなってしまったんです。片道分の電車賃を貸してもらえませんか?」と言ってきたご婦人に、電車賃を貸してあげた。左右馬が言うように、これは明らかな寸借詐欺の手口だ。
しかし、端崎はすぐに他人のことを信じてしまう。嘘を聞き分ける能力を持っている鹿乃子にとっては、そんな端崎のことが不思議で仕方がないのだろう。そもそも、嘘が聞こえない人間は、他人が言っている言葉の一つひとつを疑ってかかったりしない。寸借詐欺まがいのことを言われた端崎のようなパターンを除けば、だいたいのことはまず信じてみる…という人が多いと思う。
それは、左右馬が言うように、「信じて飛び込んでみなきゃ、始まらない」から。たとえば、「汽車賃を貸してくださいませんか? 遠くに住む母が危篤なんです。お金は必ず、お返ししますから」と女性に寸借詐欺を仕掛けられた鹿乃子も、嘘の音が聞こえなければ、彼女にお金を貸していたかもしれない。でも、鹿乃子は「あなた、嘘をついているから」と、彼女の嘘を見抜いてしまった。