負の側面もある「一島一家」の意識
今回の騒動をきっかけに分断される人々の心を再び一つにしてくれたのは、一平の行動だ。子供の頃、父親と2人きりの生活になってから、たびたび鉄平の家を訪れるようになった賢将。
一平も辰雄に対しては色々と思うところはあるのだろうが、賢将をその息子として色眼鏡で見るのではなく、快く受け入れて寝食を共にした。それこそ、本当の家族のように。
そんな賢将が島で孤立しているのを見兼ねた一平は「うちのカレーいつ食いに来るんだよ」と声をかけ、「あいつはな、うちの家族なんだよ。俺の自慢の息子!みてぇなもんだ」と言ってざわつく他の鉱員たちを黙らせる。その心意気に思わず目頭が熱くなった。端島を象徴とする「一島一家」の考えには、自分たちの輪に馴染めない、あるいは馴染もうとしない人を排除しようとする負の面もあった。
だが、みんなで力を合わせれば、もっと別のところで自分たちを分断しようとする流れに争うこともできる。鉄平たちは今回の騒動を生んだ労働組合制度の仕組みを変えるための投票を実施した。これをもって、できた溝がすぐに埋まるわけではないかもしれないが、それぞれの島民が自分たちがどうあるべきかを考えるきっかけにはなっただろう。