怒りのぶつけどころがない七苗のことを思うと胸が締め付けられる
七苗が働いている会社は、女性の社会進出を推奨しているため、ワーママは全力で応援されている。「熱を出したから、帰ります」と言えば、すんなり帰宅させてもらえるし、「大変だよね。大丈夫?」なんて優しい声かけまでしてくれる。ただ、そのしわ寄せは、すべて七苗が被っているのだ。
千尋の子どもが熱を出したため、七苗はずっと楽しみにしていた二つ星レストランの予約をキャンセルして、代わりに会食に出席しなければならなくなってしまった。しかも、キャンセル料が16000円ときた。
SNS上では「せめてキャンセル料は請求するべき!」なんて声が多く上がっていたが、「代わりに出席してあげるから、16000円払ってね」と言えるような人だったら、こんなにも損な役回りを引き受けることもなかったような気がする。
ただ、いつも「いいよ、いいよ」と言ってきた七苗が、「大丈夫じゃない。大丈夫じゃないよ。わたしだって、いっぱいいっぱいで、無理だってときもあって……」と千尋に素直に伝えられたのは、本当によかった。
千尋が、子ども関連のことで帰宅をするたび、七苗は「なんでだよ」と思ってしまう。それでも、怒りのぶつけどころがない。自分だって、いつ千尋のような状況になるかも分からないし、支え合いが大切だということも分かっている。
一本柱で生きているから、できて当たり前だと思われてしまうモヤモヤもあるだろう。二足の草鞋を履いている人は、どちらも中途半端になってしまって悩むこともあるかもしれない。
掴んだもの、何かを掴むために捨てたもの、掴みたかったのに掴めなかったもの、いつか掴みたいもの……。たくさんの要素が組み合わさり、自分が出来上がっている。
七苗も、千尋も悪くない。ただ、会社はもう少し、七苗のパンクしそうな心に寄り添ってくれ……と思ってしまう。