八海にとって誰よりも魅力的な存在だった陽ちゃん
陽ちゃん(木戸大聖)は、思春期の子の心に寄り添うのがうまい。現世では酒屋だけれど、前世は思春期コンサルタント(なんだ、それ)でもやっていたのではないだろうか。八海(畑芽育)が、姉妹喧嘩をして家を飛び出したときも、「俺が行く」と真っ先に追いかけていた陽ちゃん。
八海の場合は、たしかに陽ちゃんが行くのがいちばん良さそうだよな……と思ったけれど、出会ったばかりの九吾が飛び出したときにまで、「俺が行って見てくる」と立候補するなんて。しかも、九吾が大庭家に帰りづらそうなのを察して、自分の家に泊めてあげるのも優しすぎる。
みんなが心配しないように、「九吾うちに泊めるから心配すんな」とメッセージを送るところまで含めて、完璧だ。
こんな姿をずっと見てきた八海は、陽ちゃんのことを好きにならざるを得なかったんだろうなと思う。10代の頃って、身近にいる年上の男性がすごく大人っぽく魅力的に映ったりするもの。
それだけでなく、陽ちゃんは八海が寂しいとき、ずっと一緒にいてくれた。ただ、陽ちゃんからしたら、それは九吾に優しくするのと同じような感覚。だから、八海は陽ちゃんに優しくされるのが嫌だった。
優しくされると、子ども扱いされているような気持ちになるから。七苗の前では不器用で空回りしているくせに、自分の前では器用に立ち振る舞う陽ちゃんを見るのが、苦しかったんだと思う。
「もうすぐ、ハタチだよ。まだまだこれから伸び代だらけだし。きっとすぐ誰かに出会うと思う。だから、心配しないで」
陽ちゃんに振られるのを察知した八海が言った言葉。これが本心なのかは分からないが、筆者は八海はもう陽ちゃんのことを吹っ切ったんじゃないかな? と思っている。陽ちゃんに恋をしたことで、八海は新しい夢を見つけることができた。
“妹的存在”から昇格することはできなかったけれど、陽ちゃんが与えてくれた恋の喜びや悲しみやもどかしさを抱きながら、八海はまた歩き出していくのだろう。まだ、ハタチ。これから、たくさんの伸び代がある。それに、きちんと終わらせることができた恋は、“思い出”にできる。