平穏な日常が崩れていくことへの不安
最終的に、宝は地区予選に行き、福は1人で病院へ行くことに。だが、問診票に名前を書いているときに、母から繰り返し聞かされる名前の由来を思い出す。母がどれだけ福を愛し、幸せを願っているかを感じさせるエピソード。自分を大切に育ててきてくれた母に、もしもこのことを知られてしまったら…。大事な人を裏切りたくない、裏切るわけにはいかない。自分の行動で悲しむ顔を見たくない。福の中を駆け抜けた恐怖が目に見えるような桜田の表情は秀逸だった。
1度は病院を抜け出した福だったが、病院に行ったかを聞くのではなく、不安げな声の福に「好きだ」と伝える宝からの電話で考えを改める。福はなによりも、宝とのこの平穏な生活を守りたいと気がついたから。
再び病院へ向かうが、診療時間はすでに終わっており、タイミングの悪いことに次の日からは大型連休でどこの病院も連日休診となる。セリフはそこまで多くはないのに濃密な30分は、足元がすっと寒くなるような感覚とともに幕を閉じた。
幼少期の福が捨て猫を家で飼うことを反対され泣いていたところを、宝が一緒に近所を周って引き取り手を探すという回想シーンがあった。捨て猫を放っておけない優しさ、泣いている福に手を差し伸べる優しさ。主成分が優しさでできているみたいな2人が、これから明らかになる“妊娠”という事実とどう対峙していくのか。
きっと福と宝が迷ったり傷ついたりするところをたくさん見ることになるのだろう。桜田と細田が演じるそれらのシーンがいまから恐ろしくもあるけれど、しっかりと見届けたい、と期待とともに思う。
(文・あまのさき)
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