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『JIN -仁-』とリンクする「命」と「神」の存在

ドラマ『ブラック・ジャック』第1話 ©テレビ朝日・東映
ドラマ『ブラック・ジャック』第1話 ©テレビ朝日・東映

 キリコを演じる石橋は、美しい目はもちろんだが、声がいい。やわらかで説得力のある響きを持っている。ラスト、彼女が、「でも思うのよ。放っておくと死ぬ個体を力づくで生き返らせるのは人間だけよね」と、よく通る落ち着いた声で投げかけるシーンがある。

 今回のドクター・キリコの「死」の定義はきっと「心の死」である。そういった意味で、彼女が今回のドラマで一番、令和という時代を表しているのかもしれない。それでもブラック・ジャックは言う。

「生きる苦痛から逃れるために命を断ち切るのも人間だけだ。それはどこまで許されるのかね」
「…神のみぞ知る、かしらね」

 このくだりは、まさに「美声合戦」。むちゃくちゃ響きのいい高橋一生さんとこれまた響きのいい石橋さんの声の相性がものすごく良く、静かな迫力があった。さらに私はこのやりとりに、思わず『JIN -仁-』(TBS系、2009・2011)を思い出した。

 タイムスリップして人の命を助けることで歴史が変わるのでは、と悩む南方仁(大沢たかお)に、佐久間象山(市村正親)がこう叫ぶシーンがあった。

「もし、お前のやったことが意にそぐわぬことであったら、神は容赦なくお前のやったことを取り消す。救え、心のままに、救え!!」

 参った。『JIN -仁-』まで、また観たくなってきた…。手塚治虫は、著書『ガラスの地球を救え』(光文社文庫)で、「『ブラック・ジャック』は医療技術の紹介のために描いたのではなく、医師は患者に延命治療を行なうことが使命なのか、患者を延命させることでその患者を幸福にできるのか、などという医師のジレンマを描いた」と記している。

 そんな『ブラック・ジャック』の名エピソードを重ねた今回の実写化は、「マンガみたいな世の中」に置かれた生と死の狭間を、改めて感じることができた。琵琶丸(竹原ピストル)の歌う「一夜」と、あの迷宮に入ったような妖しげなBGMが、今も頭の中で、ぐるぐると響いている。

(文・田中稲)

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