実際に起こった娘の誘拐未遂事件
話を戻そう。大スターとしての日々は、スターになっても態度が全然変わらないスズ子より、周りのほうが表していた。
まず、タケシの態度。あんなにトロトロしていたのに、3月18日回では、業界に染まりまくり、かなり鼻につくオラオラマネージャーっぷりを発揮。「山下じいが泣いてるぞ。謙虚と言う言葉を思い出せコラッ」と頭を張り倒したくなったものだ。
そして、第24週「ものごっついええ子や」回で描かれた、愛子ちゃん(このか)の誘拐騒動。衝撃だったが、これもまた大スターゆえに狙われた大事件だ。
このエピソードは、昭和29(1954)年3月31日に起こった起こった娘のヱイコちゃん誘拐事件が下敷きとなっている。当時、笠置シヅ子の売れ方は群を抜いており、昭和23(1948)年度の高額納税者ランキングでは、作家・吉川英治に続いて2位!
一時は「カセギスルコ」とまで呼ばれたそうだ。ブギウギブームの陰りは昭和27(1952)年から見えていたけれど、シズ子は”エノケン”こと榎本健一とのコンビで芝居が絶好調だった。
さらにシヅ子の屋敷は、世田谷区の一等地にあり、建坪40坪、土地の広さは306坪、「ハリウッドスタイル」という平屋建て。
ドラマで、友達がいない愛子を心配し、ガーデンパーティーを催した回があったが、現実はもっと派手で、娘のヱイ子の誕生日には200人余りを招待し、寿司や焼き鳥、おでんにソバの屋台も出たという。う~ん、セレブ! 目立ちすぎる(汗)。
その様子は雑誌にも紹介されたが、当時のメディアは、今のようにコンプライアンスなどなく、個人情報ダダ漏れ。住所、家族や同居人、ペットの名前まで掲載することも普通だったのだ。恐ろしい……。
有名芸能人の豪華な生活は妬みややっかみを受け、卑劣な犯行のターゲットになったわけである。
エイコの誘拐事件もドラマよりも厄介で、シヅ子は電話を含めて9回も脅迫を受けている。4月8日にようやく犯人は捕まったが、男は翌年9月にも同様の手口でシヅ子を脅迫している。