世界は自分が思っているよりも
温かいのかもしれない
どうやら、八重森家が三ツ沢家と仲良くなったのは、ありす(門脇麦)が保育園に通っていたころ、心護が「お願いします。助けてください」と頭を下げたかららしい。ゲイの心護とASDのありすに対して、「普通じゃない子が同じ園にいたら悪影響」「同性愛者に子育てなんてできるの?」と心ない声をかける保護者もいたが、定一郎(皆川猿時)はちがっていた。
「みんなでちょっとずつ助けてやれば、どうにかなるだろ」と言い、娘の和紗(前田敦子)にありすを守るように言い聞かせたのだ。寄り添ってあげた定一郎も優しいし、他人に助けを求めることができた心護もすごい。
もしも、たったひとりですべてを抱え込んでいたら、ありすはこんなにも伸び伸びと育つことはできなかったのではないだろうか。
「助けて」と声をあげるのは、勇気がいる。しかし、SOSを出してくれるのを待っている人は、意外にもたくさん存在するのだ。「助けてなんて言ったら、面倒だと思われるんじゃないか」と躊躇してしまうこともあるけれど、この世界は自分が思っているよりも温かいのかもしれない。
ずっと冷たいイメージだった優奈の義母が、「助けてください」と言われて初めて変わったように。「気づいて」「察して」と思っているだけでは、人は動いてはくれない。人と人とのつながりが希薄になっているこの時代だからこそ大事にしなければならないことを、『厨房のありす』は再確認させてくれる。