挫折、自立、そして社会人として一歩を踏み出す
ゆっくり景色を眺めようと思って乗ったアトラクションが、実はジェットコースターだった……そんなスピード展開を見せた『フェルマーの料理』第1話。
番組冒頭、“2024”と数字が現れ、顔を洗い鋭い目つきをした岳の様子から始まる。黒いユニフォームに鮮やかな赤のコックタイ。ゴールドの糸で「K」の文字が刺繍されている。無駄なく厨房を動き、鮮やかな手つきで料理を仕上げる。
料理であることには変わらないが、わずかな揺れでバランスを崩してしまいそうな繊細な芸術作品のようだ。岳が白い器に手を添えた様子からも、一皿にかける並々ならぬ熱量が伝わってきた。
そこから時を戻して“2023”。まだ高校生の岳の様子が描かれる。ヴェルス学園の特待生として様々な支援を受けてきた岳だが、数学オリンピックの選考会で挫折を味わい、そこから雪崩のようにバランスを崩していく。ついにはヴェルス学園の理事長・西門景勝(及川光博)の機嫌を損ねてしまい、退学処分にまで追い込まれた。
ひとつだけ理不尽な西門の決定を覆す方法があった。それは数学を取り入れた料理。確かな技術だった。高校生にしてはハードルが高く、朝倉なしには叶わない方法ではあるが、絶望の中にひとつ希望の光りが射した。
チャンスとは準備万端な人にまんべんなく訪れるものではなく、こんな風に突然訪れるものかもしれない。朝倉のアシストによって退学を翻したのは痛快で、TBS系の日曜劇場を観ているかのようだった。
私立高校の特待生とはいえ、なにもそこまでしなくても…とツッコミを入れたくなるほどに大人げない西門。年を重ねたからといって必ずしも立派な人間であるとは限らないのだ。