守られた場所からの自立
「K」の扉を開いた岳の未来は
これまで岳は、父親の夢でもある東大進学を経て、ゆくゆくはフェルマーのような数学者になる夢を抱いていた。挫折を経験してからは、育ててくれた父の思いや夢だったものが、状況が変わったことで呪縛のように岳を静かに苦しめていた。
朝倉は岳に自分が“主人公”だと言った。これは岳にも響いて、原動力となった。結果的に東大への切符を手にしたものの、岳は「K」への入店を決める。
つい、東大へ入った方が将来的にも……と口を挟みたくなるし、それに主人公って聞こえはいいけど、その代わり責任もついてまわる……。まだ高校生だしそんなに無理しなくても、とりあえず大学に入ってそこから考えても遅くはない、なんて思ってしまわなくもないが、これもいつしか刷り込まれた古い価値観なのかもしれない。
最終的に岳の意志を尊重した父も立派だった。ふと、棋士の藤井聡太竜王や野球界の高卒ルーキーが頭に浮かんだ。一つを極める環境に身を置き、それをアシストしてきた人がいる。それと少し似たものを感じた。
親や学校など、守られた場所からの自立を決めた岳。ついにレストラン「K」の扉を開いた。ところがそう上手くはいかないようで、岳の知らない裏側では、朝倉が岳をモブ扱いする発言も……。ここから本格的に岳の戦いが始まるのだった。