SNSが生んだ現代病
ストーリー全体として細かいクエスチョンマークが浮かんだことは否定できない。美江が海で自死するわけはないという桜と真の見立ては少々強引な気がするし、自己肯定感の低い美江がマッチングアプリをするタイプに見えないという違和感も、これほどアプリ婚活が流行している現代では根拠として弱いように思えた。
だが、「梨々香みたいに輝きたい」と羨んでいた美江の気持ちは理解できる。学生時代から、美江は部員2人だけの合唱部に所属する地味な存在で、梨々香はテニス部のエースで人気者。卒業後も梨々香は表舞台でキラキラと輝く一方、事故で両親を亡くした美江は高校進学を諦めて就職していた。
だからといって、美江のように誰かに成り代わるというのは極論だが、自己肯定感の低さから不安に苛まれてしまうというのはある種の現代病だ。SNSは、周囲の人間だけでなく、遠く離れた人の動きまでが簡単に見えてしまい、自身と比べてしまうという弊害を生み出している。美江のように自分の人生に疑問を抱き、このままでいいのかと漠然とした不安を持ってしまったことは誰にでもあるのではないだろうか。
ただ、自分の人生に意味がないと決めつけるのは誤りだ。それは自らの人生を“捨てた”美江にも当てはまる。彼女が働いていたケアハウスの利用者は美江を思い出す瞬間があり、彼女が心血を注いできた中学時代の合唱部は今では部員30名となり、全国大会に出場するという。また、最大の理解者である太一は梨々香を見た時から、その正体が美江であることに気付いていた。