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恋愛ドラマの名手・大石静の真骨頂

『光る君へ』第25話より ©NHK
『光る君へ』第25話より ©NHK

 一方、突如まひろの結婚報告を受けた道長を演じる柄本佑の芝居も圧巻だった「おかげさまで為時の娘も夫を持てることになりました」と言う宣孝の言葉に「それはめでたいことであった」と返すまでにかかった時間は約1秒。それ以上、間があっては“意味”が出てしまう。衝撃を受けつつも、一瞬にして気持ちを立て直す道長。

 しかし、さすがにその夫が宣孝という事実には戸惑ったようだ。なにせ、まひろは道長の妾になることを拒んだのだから。それなのになぜ、誰かの正妻ではなく宣孝の妾の立場に収まったのか。

 それはひとえに宣孝には燃え上がるような恋心はなく、嫉妬しなくても済むからである。だけど、道長が他の女性を愛することには耐えられなかった。それだけ道長のことを思っている証拠だが、おそらく道長本人は理解しきれていないであろう。道長は乾いた笑いをこぼした後、「それは何より」とだけ呟いた。

 その日は自身の自宅に帰らず、内裏で仕事に没頭した道長。まひろのことを思い浮かべながら、物思いに耽る表情が秀逸だった。道長はどこかで、まひろがずっと自分だけを好きでいてくれると期待していたのではないだろうか。だけど、それはそれで申し訳ないような気持ちになるのだろう。

 宣孝のようにわざわざ牽制しにくる恐れ知らずでたくましい男性がまひろの夫になってくれて、ホッとしたような、寂しいような“元カレ顔”で道長は微笑んだ。

 そんな道長にとって精一杯の虚勢がまひろへのお届け物に表れている。たんまりとした祝いの品に忍ばせた手紙は道長の字ではなかった。かつてまひろへの愛を綴った文字で結婚を祝う気にはなれなかったのだろう。さすがは男心も女心も心得ている恋愛ドラマの名手・大石静と、唸らざるを得ない回となった。

(文・苫とり子)

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