道長「生贄」発言の真意とは
『光る君へ』第26回のタイトルは「いけにえの姫」。この回で、道長と倫子の娘・彰子が初登場となった。特筆すべきはその口数の少なさだろう。道長に入内の意思を問われても、「仰せのままに」とだけ答える彰子。それだけではなく、「今日は何をしておったのだ」という道長の単純な質問にすら彰子は何も答えず、弟の田鶴(小林篤弘)が代わりに「姉上は何もしてません」と答えた。
表情も常に物憂げで、今にも泣き出しそうである。そのため、定子は一条天皇に入内する彼女のことを脅威にも感じておらず、伊周も「ろくに挨拶もできぬうつけ」と。だが、少なくとも彰子はうつけなどではない。
というのも彰子の反応の薄さは単純に言葉が出てこないというより、周りに遠慮して自分の気持ちを敢えて押し黙っているような印象を受けた。むしろ、左大臣である道長の娘と生まれた自分の宿命を受け入れている節さえある。この時、彰子はまだ11歳。小学校高学年くらいの年齢だと考えれば、あまりにも落ち着いている。
父は仕事で忙しく、母である倫子もしっかり者なので、良くも悪くも聞き分けが良すぎる子に育ってしまったのではないだろうか。その辺りは一条天皇と共通する部分であり、彰子が彼の良き理解者となりうる可能性を秘めている。「彰子様は朝廷のこの先を背負って立つお方」と予言した晴明。見上愛が演じる彰子は年相応の幼さはあれど、その片鱗を十分に感じさせた。
一方、道長の父としての顔も印象深い。円融天皇(坂東巳之助)に入内した詮子、花山天皇(本郷奏多)に入内した忯子(井上咲楽)、そして一条天皇に入内した定子。いずれも幸せとは言い難い婚姻生活だったゆえ、道長は自分の娘は天皇に入内させないと心に決めていた。それなのに国家の安寧のために娘を差し出さねばならなくなった道長は、「これはいけにえだ」とはっきり口にする。そこには、晴明の予言に屈してしまった己を責める意味も込められているのではないだろうか。父としての正しさと、国を背負うものとしての正しさの間で苦悩する道長の複雑な心境を柄本佑が映し出していた。