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毒に運命を狂わされた詮子の最期

『光る君へ』第18話より ©NHK
『光る君へ』第18話より ©NHK

 宣孝とは対照的に、死の瞬間がしっかりと描かれたのは詮子(吉田羊)だ。40歳を祝う儀式の途中に倒れ、そのまま回復することなく帰らぬ人となった詮子。最期の瞬間まで、側にいたのは弟である道長だった。

 一見穏やかだが、権利欲が強く何を考えているかわからない長男の道隆(井浦新)と、父・兼家(段田安則)に認めてもらえない苛立ちを弟の道長にぶつけていた次男の道兼(玉置玲央)。そんな二人をよそに、道長と詮子は仲が良く、家族の中で唯一本音で語り合える仲だった。

 登場当初は17歳で、夫となる円融天皇(坂東巳之助)の前では乙女の表情を見せていた詮子。だが、兼家が円融天皇を退位させるために毒を盛らせたことで夫婦関係も壊れてしまう。

 子供が産まれてからは教育ママとしての顔を見せ、一条天皇(塩野瑛久)の政に口を挟んだり、中関白家を凋落させるために伊周(三浦翔平)に呪詛されたと騒いだり、父のように目的のためなら手段を選ばない姿勢を発揮した。

 現代的に言えば、詮子は“毒親”と呼ばれるような存在かもしれない。それでも多くの人が詮子に思いを馳せることができたのは、父からも夫からも一人の人間として愛情を注がれなかった彼女の孤独を知っているから。それでも“母として”、一条天皇が誰にも政治の道具として利用されないように守ろうとしてきた。

 自身が病に倒れた瞬間も、“穢れ”が移ってはいけないからと一条天皇に触れさせようとしなかった詮子はまさに国母の鑑。一方で、道長がいくら願っても頑なに薬を拒否する姿は、毒に運命を狂わされた詮子の傷が想像以上に深いことを物語る。

 そんな詮子の強い覚悟と、時折見せる痛々しいまでの哀しみを全身全霊で体現した吉田羊。決して完璧な人間ではなかったかもしれないが、弟である道長の前で見せる素の表情はチャーミングで、彼女もまた視聴者から愛されるキャラクターだった。

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