女社会の腹の探り合いとは無縁だったまひろ
こうしてまひろの藤壺での暮らしが始まるも、他の女房たちが忙しく行き来する廊下と御簾一枚でしか隔たれてない場所での執筆は思うように進まなかった。夜になると、女房1人ひとりに与えられた部屋が俯瞰撮影により映し出されていく。
いびきを掻いているもの、寝言を囁いているもの、夜なのに十二単で出かけていくもの…。そうした音が気になって、まひろは遅くまで眠れず翌朝寝坊してしまった。昔馴染みの赤染衛門(凰稀かなめ)に起こされて朝礼に遅れて参加するも、他の女房から夜伽に召されたと勘違いされ、嫌味を言われてしまう始末。
そんな光景を見ていると、倫子の実家で行われていた和歌の勉強会を思い出す。身分の高い姫たちはお淑やかで目立った意地悪はしないものの、笑顔でちくりと嫌味を言うことがある。だけど、まひろはそれに気づけない。実家暮らしが長く、女社会に縁のなかった彼女はそういう腹の探り合いがめっぽう苦手なのだ。
これでは物語など書けないと判断したまひろは道長に頼み込み、一旦実家へ下がることに。感動的な別れから、わずか8日後の出来事であり、家族は空いた口が塞がらない。世間的には甘いと言われても仕方ないが、筆者は意気揚々とアルバイトを始めるもすぐに根を上げて辞めてしまった過去を思い出し、まひろに共感してしまった。