自分を責め続けていたまひろ
「あの日、私が三郎に会いたいって思わなければ。あの時、私が走り出さなければ。道兼が馬から落ちなければ、母は殺されなかったの。だから、母上が死んだのは私のせいなの」
そう言いながら泣きじゃくるまひろ。あの出来事は全て道兼が悪い。そう思えたらどれだけ楽だっただろう。まひろは道兼を呪う以上に、自分自身を呪ってきたのだ。まだ15歳にしてまひろが一身に背負った後悔と罪悪感をあらわにする吉高由里子の泣きの演技に胸が締め付けられる。
そんなまひろの告白を受け、道兼を問い詰める道長。「虫けらの一人や二人、殺したとてどうということもないわ」と一切悪びれる様子のない道兼に殴りかかるその姿からはいつもの穏やかさはない。兄に対する憤りや怒り、そして戸惑い、あるいは自責の念も感じられた。
ちはやを手にかけたあの日、道兼はいつも以上に苛立っていた。それは「意に沿わぬことがあったからと、弱きものに乱暴を働くのは、心小さきものがすること」と自分に意を唱えた道長を殴り、母親に強く諌められたから。
もしあの時、自分が兄を怒らせなかったら。そもそも、まひろにまた会おうと誘わなければ……。まひろだけではなく、道長の中にも後悔と罪悪感が芽生えた。それは突き詰めていくと、まひろと道長が出会わなければ良かったという結論に至ってしまう。互いに惹かれ合いながらも、運命に引き裂かれてしまう2人。初恋にしてはあまりに切なく重い。
だが、ちはやが死んだのは決してまひろや道長のせいではない。全てはカッとなり、人を殺めてしまうような道兼の横暴さが招いたこと。もっといえば、息子をそういう人間に育ててしまった兼家(段田安則)の責任だ。