2度目は無い相手ほど饒舌になれる椿
松下洸平の表情に注目
今回特筆すべきは、椿を演じる松下洸平の巧みな感情表現だろう。
会社で同僚たちの雑用や上司からの無茶ぶりに応えるときには好意的に対応していたが、その中には不安げな感情が揺れ動いていた。冒頭、子どもの頃の椿(土田諒)がスーツ姿でオフィスに紛れ込むシーンがあったが、あの子の姿がダブって見えた。大人になった椿の心の中にも、「いい子でいなければ」「1人でも大丈夫にならなければ」と自分を追い詰めるあの頃の少年が住んでいる。
対して2度目はないとわかっている相手を前にして流暢に話すときには、目に自信が宿っているように見えた。自分という人間について、自分の考え方について、常に思いを巡らせているからこその言葉数と、それに起因する自信。1枚、目に見えない鎧を着ているようだった。
でも椿の感情が放出されたとき、つまり今回でいう純恋との対話のシーンでは、その鎧が外れた瞬間があった。そのときに覗いたのは子どもの頃の不安げな椿で、頬を伝った涙を少し乱暴に拭う動作に彼の本質を見た気がした。
純恋との婚約関係が完全に終わりとなり、心配されるのは椿の家の存続だ。彼1人で住むにはその家は広すぎる。
だが、椿は「考えている最中は引っ越さない」とはっきりと明言した。夜々が「部室みたい」と表現した居心地のいい居場所は、まだ継続するようだ。そこで繰り広げられる迷える4人の悲喜こもごもを、やさしく見守りたい。
(文・あまのさき)
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