亡き父・耕助の物語
『かぞかぞ』が最後に紐解くのは、亡き父・耕助の物語だ。初めて芳子たちに挨拶した日、急に仕事が入った沖縄旅行当日、草太(吉田葵)が生まれた日、草太の将来を心配したひとみ(坂井真紀)と言い合いになった日、そして、ソファーに倒れ込んだまま起き上がれなくなったあの日。
耕助の幻は見る人によってさまざまな姿で現れてはいたが、耕助自身の魂は、ソファーに倒れ込んだあの日からずっと、部屋の片隅にとどまっていたのだ。
ひとみは楽しかった沖縄旅行の記憶の中で「あたしら頑張ったよな」「耕助は頑張りすぎた」と伝え、申し訳なさそうに佇む夫を「ええよ、耕助」と優しく送り出す。七実もまた、耕助の幻がとどまるあの場所で「よう頑張ったよな」と父の頭を撫でた。
それはかつて、自分を無理やり奮い立たせるために「大丈夫」をひたすら唱えていたあの時の七実が一番欲しかった言葉。山あり谷あり波瀾万丈な岸本家の物語は、ある日突然途絶えた耕助の人生を家族が肯定できたことで、ようやくハッピーエンドにたどり着いたのだと感じた。