押し殺してきた「大丈夫じゃなかったこと」が爆発
それまで「大丈夫」という言葉で蓋をしていた薄暗い気持ちが、爆発したのは突然のことだった。仕事で取り返しのつかないミスを起こした七実は、信頼を取り戻すために、各所を駆け回る。
その結果、とあるWEB媒体の取材を受けることになるのだが、インタビュアーの関心は『Loupe』の新サービスではなく、七実本人の“壮絶な人生”に向けられた。
七実の写真が大きく掲載されたインタビュー記事についていたのは「悲劇だらけでも、大丈夫!」「何でも乗り越えられる無敵のスーパーウーマン!」という見出し。分かりやすいように他人にラベリングされたその言葉で、いままで押し殺してきた「大丈夫じゃなかったこと」が一気に押し寄せてきたのだ。
会社の人たちの信用を失うこと。弟のためにしっかりものの姉でいること。周囲の好意をにこやかに受け取ること。父が亡くなる直前にひどいことを言ってしまったこと。悲しむ母や草太の分まで頑張ろうとしたこと。母が一生歩けなくなってしまったこと。大好きな父が死んでしまったことも、全部、大丈夫ではなかった。
常に明るく振る舞おうとする七実が、自分の気持ちをより押し殺すようになったきっかけは、耕助が亡くなったことだろう。しかし、七実にとって本当に大切なのは、後悔を抱えて生きていくことではない。父の死をしっかり“悲しむ”ことなのだと思う。
けど、それは容易くない。父の死を悲しむことはつまり、大好きな父の死を受け入れるということになるのだから。
ラストシーン、うずくまる七実に父は「ごめんな」と声をかける。その抱擁はいまも消えない父の愛情を感じると同時に、娘を縛りつける呪いのようでもあった。「パパなんか死んでまえ」この言葉が娘の本心ではないことを父は理解している。許している。けれど、その声はいまだ娘に届かない。
(文・明日菜子)
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