時の流れには抗えないけど受け継がれるもの
芳子の若かりし時代と同時に『かぞかぞ』が描くのは、“家族の老い”である。亡くなった耕助(錦戸亮)や大病を患ったひとみとは違い、ゆっくりと迫ってきた芳子の変化。いつか家族のことさえも忘れてしまう日がくるかもしれないという悲しみが押し寄せながらも、第8話に感じたのは、心が満たされるような温かさだ。
例えば、七実が芳子の認知症に気づく場面や、ひとみに「ばあちゃん、認知症やな」と伝える場面には、優しい光がさしていて、誰もが避けて通れない“家族の老い”が決して悲しみだけで終わるものではないと語りかけているようだった。
「お母さんにも人生の喜び、ちゃんとあったかな…」と子どものように泣きじゃくるひとみに対して、「うん、あったよ。今もある」と孫である七実が祖母の人生を肯定する姿も愛に満ちていた。
大切にしていたものがいつか古びてしまうように、人間も必ず年を取る。時の流れには抗えないけれど、それでも変わらずに、受け継がれるものがある。
祖母と孫が同じようにりんごを剥くシーンはその象徴だ。おそらくひとみもりんごを剥く際、同じようにうさぎ型にして七実に与え、自分は余った耳の部分を食べていたのだろう。
芳子の愛情はひとみに、ひとみを通して七実へと受け継がれる。たとえ芳子が忘れてしまったとしても、その愛が絶えることはない。
入院生活を終えたひとみは、ようやく自宅に戻る。久しぶりに言葉を交わす母は、以前よりぼんやりしているものの、家族のために忙しなく働き、会話することさえもままならなかった母とようやく向き合う時間を手にしたひとみは、どこか嬉しそうだった。
『かぞかぞ』におけるもう一つの“母と娘”の物語は、これからも続いてゆく。
(文・明日菜子)
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