イマジナリー父・耕助(錦戸亮)との別れのシーンに注目
なかでも時間の経過を感じたのは、弟の草太(吉田葵)が一人暮らしを夢見るようになっていたことだろう。だが、草太と二人暮らしのひとみは複雑な想いを抱えていた。
「ずっと草太と二人でおるつもり?」「当たり前やん。“家族”なんやから」「一緒に住んでへんけど“家族”やんねえ?」と母の違和感に気付いた七実がちょっと探りを入れた通り、ひとみにとって、草太は生まれた時から“特別”だった。根底にはやはり「健康な身体で産んであげられなかった」負い目があり、同時に「障がい者の息子を親が守らなければいけない」という強い義務感が芽生えたのだろう。その想いは耕助(錦戸亮)が亡くなったことでさらに強まった。
普段は朗かであるひとみが草太への執着を露わにしたシーンには、まさに“修羅場”を感じさせたが、草太の巣立ちを描いたシーンは一転して爽やかだ。今作では「グループホームへの体験入所」と「イマジナリー父・耕助(錦戸亮)との別れ」を通して、草太が身体的にも精神的にも家族から自立していく過程を鮮やかに描いている。
草太の胸中を映したような、亡き父との二人だけの場面。父と息子は「この道であっているか」「あっている」「間違っていないか」「間違っていない」を繰り返し、草太の「パパ、いままでありがとう」を合図に、耕助の幻はフレームアウトする。もし父の幻がパッと消滅していたら、草太が父の存在を消し去ってしまったように感じたかもしれない…。
しかし、耕助の幻がグッと画面から退場したことで、草太が父との思い出を大切にしながらも、自分の力だけで歩もうと決めた覚悟が伝わった。