自分らしさはひとつじゃなくてもいい
飲料メーカー「モンドビバレッジ」で勤務していたまことは、仕事仲間に嫌われないように本当の自分を見せず、悪目立ちしないように生きてきた(らしい)。誰からも好かれるような無難な服を選び、何を言われてもニコニコしていたら、誰からも好かれない自分になってしまっていた。
過去の自分にショックを受けたまことは、新たなアイデンティティを確立していく。上司に絡まれても「もう〜」と言いながら笑っていた自分とは、もうおさらばだ。「これって、セクハラですよね?」とバッサリ斬り、嫌なことは嫌だとしっかり訴える。
しかし、いきなりキャラ変したまことのことを、社内の人はそう簡単には受け入れてくれない。同期の朝日なんて、「緒方はさ、この会社でうまくやっていくためにいろいろ気を遣ってた。今の緒方が、簡単に壊さないで。頑張ってた緒方が可哀想だ」と言ってくる始末。
ただ、元カレの公太郎は、まことの本性を分かっていてくれているようだ。上司にたてつき、会社を辞めることになってしまったまことを、社内の人たちは「変わっちゃったよね」というような表情で見ていたが、公太郎は「らしいじゃん」と言ってくれた。
自分らしさなんてものは、ひとつじゃなくてもいい。年齢を重ねて関わる相手が増えると、わたしたちはそのたびに新しいキャラを演じるようになる。でも、すべてひっくるめて自分なんだと言っていいのではないかと思った。偽りの自分なんてものは存在しない。ただ、この人といる自分が好きだと思える相手と、一緒にいればいい。まことは、誰といるときの自分が好きなのだろう。