得を取るばかりが正解ではない
彩はとにかく自分が損をしないことを念頭に置き、母を欺くことをも厭わない。母のように不器用な生き方はしたくないという思いと、自身のなかにある良心のせめぎ合いを、吉柳は揺れる視線で表現していく。
だが、密子の“神様のコイン”の話をあっさり信じてしまうあたり、彼女は夏の血をしっかり受け継いでいるのだ。悪にもなろうとして、なりきれない。このあたりの人間らしさを、吉柳が等身大に表現していた。
とはいえ、密子が本気で夏を裏切ることはない。彩を巧みに誘導し、パーティーの場で夏を助けるように仕向けて行く。得なほうを選んだからといって、必ずしも幸せになれるわけではない。仮病を使った娘を心底心配し、病院から病院へと駆け回る夏。
彩を見つけたときには、大事なパーティーをすっぽかしていることなんかどうでもいいと言わんばかりに、安堵の表情を浮かべている。この深い愛情を受けて育った彩だ。得を取るばかりが正解ではないことを、身に沁みてわかったはずだ。
パーティーには遅刻したものの、奈良橋へのプレゼンは、堅苦しい場が苦手な奈良橋に椅子を差し出すなどの配慮もあって成功した。権力やお金や強さよりも、人の心を動かすのは思いやりということなのかもしれない。