遺族にとっては到底受け入れがたい「命の選別」
歩(杉野遥亮)は江森を信じて事故の関係者を訪ねると、当時の事故の遭難者の1人である少年・飯塚亘(森優理斗)によって真相が明らかになる。亘は、菜月が亘ら他の患者を助けるため、自ら赤のトリアージから黒へと塗りつぶしていたことを見ていたと証言する。しかし、江森が亘に「あのことはもう忘れろ」と口止めしていたことで、江森自身の判断ミスとして遺族に恨まれていたのだ。
口止めといえば、後ろ暗いことがあった時に自己弁護として行うのが一般的。だが、江森の場合は、亘に菜月が亡くなったことへの負い目を背負わせないために、そして命懸けで亘を救おうとした菜月の思いを守るために口止めした。そこには江森の医療従事者として、いやそれ以上の思いやりが見え隠れする。
だが、江森がいくら思いやりに溢れた医者であったとしても、遺族にとって「命の選別」によって家族が“選ばれなかったこと”を受け入れるのは簡単ではない。事件の真相を知った健作は訴えを取り下げたが、結局江森に対して謝罪も感謝の言葉もなかった。当事者にとってはそれほど簡単に乗り越えることができない出来事だったことがうかがい知れる。