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現実の我々を反映した寺本

『終りに見た街』©テレビ朝日
『終りに見た街』©テレビ朝日

 呆然とする太一のかたわらでは、スマホに地下シェルターからSNSを更新する寺本の呑気な声が聞こえていた。ちなみにこの寺本も本作オリジナルのキャラクター。

 太一は昭和19年の日本で寺本にそっくりな憲兵を何度も目にするが、原作でも太一が実という愛想のいいクリーニング屋の青年に似た憲兵と遭遇する場面がある。そのことを受け、恐ろしさを覚えた太一が「あのクリーニング屋でも、戦争になって、ああした位置につくと、あんなふうに威丈高になるのか、と思った」と語るのだ。

 おそらくこの実のキャラクターを膨らませ、現代風にアレンジしたのが寺本なのだろう。「愛想のいいクリーニング屋」は「SNSで世界平和を掲げる凡庸なプロデューサー」に変わり、外が焼け野原になっても地下シェルターからSNSを更新し続ける。それは世界各国で戦争が起きていても、自分の国だけは大丈夫と信じて疑わず、安全圏から他国の窮状を眺めているだけの私たち自身なのだろう。

 爆弾で真っ黒焦げになった男は「今、何年ですか?」という太一の問いに「にせんにじゅう…」と答えたところで息絶える。202X年。その時は、もうすぐそこまで来ているというクドカンの危機感が現れていた。自身の作品で病気や自然災害など、時に理不尽に奪われる命を独自の観点から繰り返し描いてきたクドカン。戦争もその一つだが、それは私たち次第で回避できる。

『新宿野戦病院』(フジテレビ系)では戦争と同じようにコロナが風化し、同じ過ちを繰り返す人間の姿が描かれていた。最後にそんな同作から、小池栄子演じるヨウコの台詞を紹介したい。

「感染源はわからない。これだけは言える。運んだのは人間です。犯人探しは意味がない」

 戦争というウイルスがすでに蔓延しつつある世の中の流れを私たちは止めることができるだろうか。

(文・苫とり子)

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