楠見くんの義母・里美との“深い溝”
第3話では、楠見くんと義母の里美(奥貫薫)の間にある“深い溝”についても描かれた。おそらく、里美は「男の人がひとりで働きながら子どもを育てていくなんて無理。あの子の幸せのためにもこっちで育てた方がいい」といく度となく楠見くんに言ってきたのだろう。だからこそ、楠見くんは「ルカは僕と瑠衣の子です。僕が守ります。あなたには関係ありません。僕とルカ、家族の問題ですので」とシャッターを下ろすしかなかった。
その一方で、里美の気持ちも理解できてしまうから苦しい。夫も娘も亡くした里美は、遺された喪失感を抱えながら生きている。そんなとき、血のつながった孫が「寂しい想いをしているのではないか?」と思ったら…。手を差し伸べたくなってしまう気持ちもわかる。
また、楠見くんが瑠衣の一周忌に喪服を忘れただけで怒っていたのも、はたから見たら“そんなこと”かもしれないが、里美にとってはちがう。娘のことを忘れられてしまったような気持ちになって、切なくなったのではないだろうか。その上、“ルカの新しいお母さん”のような顔をした西園寺さんが急に現れたものだから、「そんなに簡単に瑠衣のこと忘れないでよ」と言ってしまったのだと思う。
里美も、瑠衣が病気で亡くなったことは誰のせいでもないと分かっている。でも、里美は「あなたがもっとしっかりしていれば」と楠見くんのせいにすることで、自分の心を保っていたのだろう。最愛の娘の死を“仕方がないことだった”と片付けられない気持ちも、怒りの矛先を向けることで悲しみから目を逸らしたくなる気持ちも分かる。でも、どうして楠見くんに直接ぶつけてしまったのか。
「美味しいとか、楽しいとか思うたびに、どうしても考えてしまうの。ここにあの子がいてくれたらなって」と里美は言っていた。きっと、その気持ちをいちばん理解してくれる同志は、楠見くんだ。瑠衣が亡くなり、喪失感を抱いているのは里美だけじゃない。
西園寺さんのサバサバとした“おせっかい”のおかげで、2人の距離はグッと縮まったものの、「もっとはやくわかり合えていたら、いちばん辛いときに悲しみを共有することができただろうに…」と思ってしまった。