5年前の事件と響の挫折
パパっ子だった響は、いつか夏目の指揮で「バイオリン協奏曲」を演奏するのが夢だった。ところが最初は勝てていたコンクールにも、いつからか勝てなくなってしまったという。自分に落第点を押しながら必死に練習を積む様子を、海は「まるで戦いだった」と表現する。きっと相当に壮絶なものだったのだろう。
そして迎えた5年前のコンクール。響はセミファイナルで会心の演奏を披露したが、その後のファイナルを棄権してしまった。負けたわけではないのに、それをきっかけに響は音楽をやめた。
明確な言及があったわけではないから想像するしかないのだが、これ以上はないと悟った響は、それでもなお父の指揮に見合わないと痛感したのではないだろうか。自分の限界をもってしてもまだまだ遠く及ばないのだと気付いたとき、きっと自分に失望する。
コンクールのシーンで、演奏を終えた響が「“何か”か“誰か”を探しているように見えた」と第一話のレビューに書いたが、もしかしたら響の演奏を讃える観客たちの拍手に異議を唱えたかったのかもしれない。こんなものでいいのか? 本当にそれほどの称賛に値する演奏なのか? と。
家出中に部屋を貸してくれた大輝(宮沢氷魚)に、響は音楽をやめた理由を「あの人と共演するのに私は足りなかった」と語った。目標へのたゆまぬ努力、そこで知った現実、周囲の評価とのズレ。当時の響は15歳、天真爛漫なだけでは、きっともういられない。逃げ出したくなってしまうのもわかるような気がした。