「初恋は殺しておかなきゃいけない」
些細なきっかけで忘れていた恋が蘇る
遠い日の思い出は、時の流れと共に美化されがちだ。そして恋も同様に、実らなかった恋ほどいつまでも心に残り続けるものかもしれない。
舜と花の偶然の再会はスーパーマーケット。シチュエーションこそ理想ではなかったが、花から「また会えるように願ってた」と言われ、舜の淡い初恋は息を吹き返すように熱を帯びていく。舜が部屋でひとり、ダンボールを片づけていると、窓の外からは花火が。
舜はそれを眺めながら、中学時代に花を花火に誘い、2人で花火を観たこと、突然の雨に降られながらもはしゃいだこと、白いワンピースの清楚な雰囲気なのに無邪気に走る花の後ろ姿を思い出していた。花火を観ながら「もう一度だけ確かめたい花火もある」と心のつぶやきのように、舜は再び、静かに、初恋の人に心を奪われていた。
舜と花が、懐かしの教室で、それぞれの思い出をすり合わせていた。舜が「記憶は当てにならない」と言ったように、遠い日の記憶は思いのほか曖昧だ。一方的な解釈に過ぎなかったり、抜け落ちていたり、そもそも見落としていたことだってある。かつて花火を観た日のように、天真爛漫な花に心を奪われ、あれから15年ほど経過してもなお、些細なきっかけで蘇ってしまう。
そんな舜の姿を見ていると、「初恋は殺しておかなきゃいけない」という鳥貝拓也(前原瑞樹)の忠告にも納得だ。いくら理屈を理解していても、心の動きは止められない。ましてや長らく蓋をしていた初恋ほど、やっかいかもしれない。2人の関係も、蕾をつけた月下美人のように、動きが見られるのもまもなく…という予感がする。