他力本願な寅子を助言する救世主
かつて何かにつけて「はて?」を連呼していた寅子はすっかり鳴りを潜めていた。寅ちゃんというよりは、寅子さんとか佐田さんと呼ばなければならないような空気を醸し出す。結婚して子を持ったことで寅子が丸くなったのかと、一瞬、思った。
女性代議士たちの民法への意見交換会に参加し、「この人たちがいれば社会を変えてくれそう」とライアンに感想を伝える寅子。変えてくれそう、とは、やけに他力本願だ。自分こそが日本初の女性弁護士になって世の中を変えるのだと奮闘していたころの寅子からはとても考えられない。
寅子にとって法曹界は、すでに1度逃げ出した道。もう失敗は許されないというプレッシャーから、そして逃げてしまったという負い目から、あんなに疑問を抱いていたはずの“スン”を、自身も多発させてしまうようになっていたのだった。それゆえの、謙虚。
だが、寅子に求められているのは、独自の視点から発せられる「はて?」だ。ライアンは「君だって社会を変えられる場所にいるのに?」と、笑顔で問いかける。これは、ここが正念場だよ、と伝える笑顔。甘えてはいけない。寅子は自分と向き合い、そして、優三の言葉を思い出す。「何かに夢中になっている、あの顔」という言葉。そのときの寅子の顔は眉間にシワがより、まったく楽しそうではなかった。まさに、世の中のしがらみに絡め取られてしまった人の顔のようだった。