青春の1ページと呼ぶにはあまりにももの悲しい
実は女子部存続をさかんに訴えた崔は、時を同じくして兄が思想犯と疑われ、すでに翌年の再受験を諦めていた。
それでもせめてみんなのそばにいたい。合格できるように手助けをしたい。そんな思いで、明律大学卒業後も続けていた甘味処での勉強会で積極的な姿勢を見せていたのだった。このとき1番悔しい思いをしていたはずなのに、そんなことはおくびにも出さず。
しかし、最終的には合格を見届けるという夢すらも叶わなかった。朝鮮へ帰らなければならないリミットが近づく。
寅子の発案で、よね、梅子(平岩紙)、涼子(桜井ユキ)、玉(羽瀬川なぎ)の5人で海へ行くことに。寅子が歌い、みんなで波とじゃれ合う。一見するとキラキラとした青春の1ページのようでもあるが、そう呼ぶにはあまりにも物悲しい。
思い出とは本来、あとから振り返ってみて気が付くものであるはずだ。意図して作ろうとすること自体、すでに物事のゴールが見えているということ。物悲しいのも当然だ。珍しくゆがめているように見えたよねの顔に、そんなことを思った。
そして、ここから起こるさらなる波乱を予感させるように、頭上には曇天が広がっていた。
2度目の高等試験を間近に控えたある日。涼子の父が女と駆け落ちをしてしまい、涼子は家を守るために結婚することを選んだ。
家を訪ねてきた寅子たちを前に、最初こそ「結婚の準備が忙しくて試験は受けられない」と気丈に振る舞っていたが、酒に酔いふらふらになる母を抱き止め、「母を見捨てられない」「わたくしのわがままに付き合わせられない」という言葉とともに涙をこぼしていく。悲痛な叫びだった。