受験を諦めた仲間への想い
寅子は口述試験の当日に月経が重なり、思うような成果を上げることができなかったものの、久保田と中山とともに合格することができた。行く先々で祝福を受ける寅子。家の中は色とりどりの花があふれ、表面的には笑顔だが、それは心からの笑顔ではない。
なぜなら、女性初の弁護士になって見えた景色は、寅子が思っていたものと違ったから。
その違和感の理由が明らかになるのは、祝賀会でのこと。記者から「日本で1番優秀なご婦人方」と投げかけられ、寅子はいつものように「はて?」と首を傾げた。
その違和感の理由が明らかになるのは、祝賀会でのこと。記者から「日本で1番優秀なご婦人方」と投げかけられ、寅子はいつものように「はて?」と首を傾げた。
自分たちが努力してきたことは間違いないが、その裏側には受験を諦めた仲間がいること、そして勉強すること自体を許されなかった人、そもそも勉強する選択肢を知らなかった人たちがもっともっと多くいることを、寅子は知っている。
寅子は自分が見たかった景色=性別でふるいにかけられない社会に、「みんなでしませんか?」と問いかける。男性も女性も、性別を問わず無意識のうちに根付いてしまっている“男性のほうが女性より優秀”という価値観の払拭。これは生半可な意識改革では成し遂げられない。
おそらく自分たちの内側にあるそのような意識に無自覚な記者たちは、寅子の言葉に顔をしかめるが、後方で見ていた桂場は吹き出し、穂高(小林薫)は称賛を贈る。桂場の笑いは嘲笑ではなく「面白いやつが出てきた」という未来への希望だろう。そして、その2人以外にも、司法関係者と思われる人々は一様に柔らかい表情をしていたように感じた。
女性初の弁護士がついに生まれたことでここからの明るい未来を期待したいところだが、物事はそう簡単ではない。寅子は社会をよりよくすることを背負って進む覚悟を決めたのだから。そこには女性の地位向上だけに留まらず、生きづらさを抱えている男性たちも含まれている。
そんな寅子の前に顔をのぞかせている別の地獄への入り口。どんなやり方で切り抜けていくのか、ますます注目したい。
(文・あまのさき)
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