優三の死を隠していた父・優三の不器用な愛
優三の安否がわかったのは、終戦からしばらく経ってからだった。実は直言が優三の死亡告知書を半年近く隠していたのだ。いま寅子に倒れられたら困るからと、ついつい隠してしまったらしい。直言らしいといえばそうだけれど、事が事なのですんなりとは受け入れにくい。
いよいよ体調が悪くなってきた直言は、寅子の結婚相手はてっきり花岡(岩田剛典)だと思っていたことや、花江がだんだん強くなっていって怖いと感じていたことなど、これまでのことを懺悔とともに話しはじめる。死期を悟ったとはいえ、あまりにも素直すぎる吐露だった。そして、こんなお父さんでごめん、と何度も何度も繰り返す。
たしかに直言は、威厳のある父親像とは違ったかもしれない。でも、本当に愛情深い人だったと思うのだ。寅子の女子部への進学を誰よりも応援し、どんなときも寅子をかわいいと言い続けた直言は、いつだって寅子のことを愛していた。
死の間際にしてなお、いや、だからこそ、それが身体中から溢れ出ているようだった。岡部たかしが作り出す、軽妙な空気を纏った憎めない父親が一層愛おしく感じる。
そして、この直言の家族愛は、しっかり寅子へと受け継がれていく。